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東京地方裁判所 平成8年(ワ)24887号 判決 1999年3月29日

東京都港区赤坂三丁目一二番一号

原告

株式会社映廣企画

右代表者代表取締役

小松重治

右訴訟代理人弁護士

佐藤泰正

阿部泰典

右訴訟復代理人弁護士

飯田丘

東京都新宿区市谷加賀町一丁目一番一号

被告

大日本印刷株式会社

右代表者代表取締役

北島義俊

右訴訟代理人弁護士

赤尾直人

相馬功

杉田禎浩

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙第二物件目録記載の煙草吸い殻入れ用袋を製造販売してはならない。

二  被告は、その製造販売に係る煙草吸い殻入れ用袋に「ポケット吸いがら入れ」又は「ポケット吸殻入れ」の表示を使用してはならない。

三  被告は、その占有に係る別紙第二物件目録記載の煙草吸い殻入れ用袋を廃棄せよ。

四  被告は、原告に対し、金七五〇万円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、原告の製造販売する別紙第一物件目録記載の吸い殻入れ用袋(以下「原告製品」という。)の形態及び原告製品に付した「ポケット吸いがら入れ」という表示が、原告の商品表示として周知であり、被告が平成五年から別紙第二物件目録記載の吸い殻入れ用袋(以下「被告製品」という。)を製造販売したことにより、原告製品との混同を生じたとして、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、被告製品の製造販売、「ポケット吸いがら入れ」又は「ポケット’吸殻入れ」の表示の使用の差止め、被告の占有に係る被告製品の廃棄を求め、同法四条に基づき、損害賠償として金七五〇万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

二  基礎となる事実

1  原告は、昭和四四年一〇月から、原告製品を製造販売しており、被告は、平成八年六月ころには、既に、被告製品を製造販売していた(弁論の全趣旨)。

2  原告製品と被告製品の形態は、切り込み線の位置が、原告製品では上辺から約一三ミリメートルの位置にあるのに対し、被告製品では上辺から約一六ミリメートルの位置にあるほかは、ほぼ同一である(検甲第一号証、第二号証)。

3  原告製品には、「ポケット吸いがら入れ」の表示が付されており、被告製品には、「ポケット吸殻入れ」の表示が付されている(検甲第一号証、第二号証)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  原告製品の形態は、昭和四七年ころには、原告の商品表示として周知であったか。

(一) 原告の主張

(1) 原告製品の発売以前の吸い殻入れの形態は、皿状又は箱状がほとんどであったが、原告製品は、厚さが〇・数ミリとかさばらず、重さが二グラム程度と極めて軽量であり、携帯者に携帯感さえ与えない。原告製品は、企業又は公共団体等が宣伝広告に使いやすいように、その表裏両面に所望の宣伝広告文字を印刷することができるようになっている。また、原告製品は、上端からやや離れたところに切り込みを設けて吸い殻入れの投入口としたことにより、投入口の開閉をしやすくするとともに、吸い殻の漏出を防ぐための折込をしやすくしたもので、切り込みを設けても、シンプルさ、薄さが維持されている。

このように、原告製品の形態は、特異であり、原告の商品表示として識別機能を備えていた。

(2) 原告代表者は、昭和四四年から原告製品の製造販売を始め、原告製品の販売数を増加させると共に地球環境保護を目的とするクリーン運動を推進するため、「日本を美しくする会」を結成し、日本を美しくする会は、昭和四五年、自治省消防庁及び日本専売公社の後援を得た。原告製品は、昭和四七年、連合赤軍浅間山荘事件で出動した機動隊員に配布され、同年、自治省の委託を受けた公明選挙連盟によって全国的に配布され、昭和四八年には、日本専売公社によって沖縄特別国体、海洋博覧会の宣伝に採用されて、煙草販売店などを通じて配布された。これらの事実は、週刊誌に掲載されたほか、昭和四六年から昭和四八年にかけて、全国の新聞に掲載された。

原告製品は、昭和四八年八月には神奈川県箱根町のクリーン運動に採用され、大手企業や公共団体により、宣伝広告の媒体として多数採用された。

原告製品の販売実績は、別紙販売実績目録のとおりであり、昭和四四年から平成八年四月までの合計販売数は、約二億〇六〇〇万枚である。

原告製品の形態及び「ポケット吸いがら入れ」の表示は、昭和四四年から現在まで、以上のとおり原告によって継続的かつ排他的に使用されてきた。

(3) 右(1)、(2)により、原告製品の形態は、原告の商品表示として識別機能を備えており、昭和四七年ころから、原告の商品表示として、需要者である事業者(広告主)の間において周知であった。

(二) 被告の主張

原告の主張は争う。

原告製品の形態は、何ら特徴的な点を有していない。また、原告製品の形態は、携帯用の吸い殻入れが備えるべき技術的機能に必然的に由来するものである。さらに、原告製品について事業者(広告主)に対して広告がされたということはない。

2  「ポケット吸いがら入れ」という表示は、昭和四七年ころには、原告の商品表示として周知であったか。

(一) 原告の主張

(1) 「ポケット」も「吸い殻入れ」も普通名詞であるが、ポケットは、洋服の袋状の物入れを意味し可燃物を連想させるのに対し、吸い殻入れの材質は不燃物であり、両者は相容れず、組み合わせて使用することは考えにくいこと、原告製品の発売以前は吸い殻入れの形状は皿状又は箱状のものがほとんどで、ポケットのような形状のものを想起することは困難であったこと、実際に「ポケット」という言葉と「吸い殻入れ」という言葉が組み合わされて使用されることはなかったことから、「ポケット」という言葉と「吸い殻入れ」という言葉を組み合わせた「ポケット吸いがら入れ」という表示は特異なものであって、原告の商品表示として識別機能を備えており、昭和四四年から現在まで、前記1(一)(2)のとおり、原告によって継続的かつ排他的に使用されてきた結果、原告の商品表示として、昭和四七年ころから、需要者である事業者(広告主)間において周知であった。

(2) 仮に「ポケット」という言葉と「吸い殻入れ」という言葉の組合せだけでは識別機能が十分でなかったとしても、「ポケット吸いがら入れ」という表示は、昭和四四年から現在まで、前記1(一)(2)のとおり、原告によって継続的かつ排他的に使用されてきた結果、識別機能を備えるに至り、昭和四七年ころから、原告の商品表示として、需要者である事業者(広告主)の間において周知であった。

(二)被告の主張

原告の主張は争う。

「ポケット吸いがら入れ」という表示は、普通名詞を組み合わせたにすぎず、識別力がない。また、原告製品について事業者(広告主)に対して広告がされたということはない。

3  損害額はいくらか。

(一) 原告の主張

被告は、平成五年以降、被告製品を五〇〇万枚販売しており、一枚の販売価格は五円であり、利益率は三〇パーセントであるから、被告が不正競争行為にょり得た利益は、五〇〇万枚に五円及び三〇パーセントを乗じた七五〇万円である。

(二) 被告の主張

原告の主張は争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1(一)  検甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、原告製品の形態は、縦九五ミリメートル、横六五ミリメートルの矩形であって、上辺から約一三ミリメートル離れたところに、上辺と平行に切り込みが設けられており、厚さは約〇・一ないし〇・二ミリメートルであることが認められる。原告製品の形態は、全体を見ると名刺に近いものであり、その形態は、ありふれたものであって、特徴的なところは認められない。

原告は、原告製品がかさばらず、重さが極めて軽量であること、原告製品の表裏両面に宣伝広告文字を印刷することができること、上端からやや離れたところに切り込みを設けて投入口としたことにより、投入口の開閉、折込がしやすく、かつシンプルさ、薄さが維持されていることなどを、原告製品の特異性として挙げている。しかし、これらは、原告製品が、前記認定のような形態を取るがゆえに当然有する効果、機能であって、これらについても、特徴的なところは認められない。

(二)  甲第二二号証、第二三号証の一ないし九、第二七号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によると、原告製品の発売以前の吸い殻入れに原告製品のような形態のものがなく、その後も、被告製品を除いては、同様の形態のものがなかったことが認められるが、そうであっても、右のとおり、原告製品の形態には、特徴的なところが認められない以上、その形態の識別力は乏しいといわざるを得ない。

2(一)  甲第一号証、第三号証の一ないし一二、第五号証ないし第二〇号証、検甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

原告代表者は、昭和四四年ころ、出願中であった煙草の吸い殻入れ用袋の実用新案の実施許諾を得て、原告製品の商品化を行った。原告製品は、携帯用の吸い殻入れの機能を備えており、原告は、注文者の希望する宣伝広告を原告製品の表裏面に掲載した上で、原告製品を注文者に納入していた。原告は、昭和四四年一〇月には五〇万枚を日本専売公社に納入し、同年一二月には二五万枚をシオノギ製薬に納入した。

原告代表者は、歌手の遠山一を代表者として「日本を美しくする会」を結成し、その事務局長に就任した。

日本を美しくする会は、自治省消防庁に原告製品の検査と後援を依頼し、昭和四五年一月一四日、その後援の承認を得、同年六月二四日、日本専売公社の後援を得た。日本を美しくする会は、これらの後援の下、各企業、公共団体に対して、原告製品を用いたクリーン運動に参加するように呼びかけた。

原告製品は、昭和四七年七月には、連合赤軍浅間山荘事件で出動した機動隊員に配布され、続いて同年一一月には総選挙に向けて自治省の委託を受けた公明選挙連盟によって全国的に配布され、昭和四八年三月には、日本専売公社によって沖縄特別国体、海洋博覧会の宣伝に採用されて、煙草販売店などを通じて配布された。原告製品は、週刊朝日や週刊読売などの週刊誌において紹介されたほか、昭和四六年八月三〇日、福日新聞、同年一二月二三日、熊本日日新聞、昭和四七年四月三〇日、北海道新聞、同年六月三日、中日新聞、同年七月五日、朝日新聞、同月二一日、新潟日報、同年一一月一七日、読売新聞、サンケイ新聞、中国新聞、愛媛新聞、大分合同新聞、昭和四八年三月三一日、琉球新報の各記事によって紹介された。こうした状況の下において、原告製品の需要は増加し、同年八月には神奈川県箱根町のクリーン運動に採用され、京浜急行や日本たばこ産業などの企業や静岡県、滋賀県などの公共団体により宣伝広告の媒体として使われた。

原告製品の販売実績は、別紙販売実績目録のとおりであり、昭和四四年から平成八年四月までの合計販売数は、約二億〇六〇〇万枚であった。

(二)  右(一)の認定事実によると、原告製品は、平成八年四月までに、新聞、雑誌等で取り上げられて紹介されたことがあるほか、企業や公共団体等に対して多数納入されたことが認められる。

ところで、右(一)の認定事実及び弁論の全趣旨によると、原告製品の需要者は、原告製品に宣伝広告を掲載することを希望する企業等の事業者や公共団体等であることが認められるが、これらの需要者は、宣伝広告媒体として原告製品を採用するに当たり、宣伝広告の効果や費用を十分に調査検討するものと推認され、原告製品についても、原告製品は、受け取った者が一定期間所持し吸い殻入れとして使用するから、宣伝広告としての機能が持続すること、原告製品は価格が安く、大量の配布が可能であることなどを考慮し、宣伝広告の媒体として適当であると判断して採用するものと推認される。また、原告製品は、需要者の希望する宣伝広告を掲載して納入さわるものであるから、需要者は、取引に際して、掲載する宣伝広告について原告と交渉等を経た上で注文するものと認められる。そうすると、原告製品は、単に形態を見ただけで取引が行われているものではなく、需要者による以上のような慎重な検討を経て取引が行われているということができる。そして、この事実に、原告が、原告製品について、これらの需要者に向けて、宣伝広告をしたことを認めるに足りる証拠がないこと、右(一)掲記の証拠によると、原告製品を取り上げて紹介した新聞等において、原告製品の形態を細かいところまで特定して紹介しているわけではないと認められること、右1のとおり、原告製品の形態には、特徴的なところが認められないことを総合すると、右のとおり原告製品が新聞等で取り上げられ、多数納入された事実があるとしても、原告製品の需要者が、形態により原告製品の出所を識別していたとまで認めることはできない。

3  以上によると、原告製品の形態は、原告製品の出所を識別させる機能を備えていたとまでは認められず、原告製品の形態は、昭和四七年ころに、原告の商品表示として周知であったとは認められないし、それ以後、現在に至るまでも、原告の商品表示として周知であったとは認められない。

二  争点2について

1  乙第四号証の一ないし三、第五号証及び弁論の全趣旨によると、「ポケット」という言葉は、「ポケットチーフ」、「ポケットブック」、「ポケットベル」など、他の言葉の前に付けて、「小さな」、「小型の」という意味で普通に用いられ、その旨国語辞典にも記載されていることが認められる。また、「吸いがら入れ」という言葉が普通名詞であることは明らかである。さらに、乙第一号証の一ないし四、第二号証によると、原告製品及び被告製品以外の携帯用吸い殻入れに、「ポケット吸いがら入れ」、「ポケット灰皿」という名称を付した製品が複数存在することが認められる。

したがって、「ポケット吸いがら入れ」という表示は、携帯用の小型の吸い殻入れである原告製品につき、その用途、形状を普通に用いられる方法で表現したものであり、それ自体が出所の識別機能を備える表示であるとは認められない。

2  また、右一2(一)のとおり、原告製品は、平成八年四月までに、新聞、雑誌等で取り上げられて紹介されたことがあるほか、企業や公共団体等に対して多数納入されたことが認められる。しかし、右一2(二)のとおり、需要者は、宣伝広告の媒体として適当であると判断して原告製品を採用するものと推認され、また、需要者は、取引に際して、掲載する宣伝広告について原告と交渉等を経た上で注文するものと認められるから、特に「ポケット吸いがら入れ」という表示に注目して取引が行われているものではない。さらに、右一2(二)のとおり、原告が、原告製品について、これらの需要者に向けて、宣伝広告をしたことを認めるに足りる証拠はなく、右一2(一)掲記の証拠によると、原告製品を取り上げて紹介した新聞等においても、常に「ポケット吸いがら入れ」という名称が紹介されているわけではないと認められ、昭和四九年以降においては、原告製品が雑誌や新聞に取り上げられたことを認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、右のとおり原告製品が新聞等で取り上げられ、多数納入された事実があるとしても、「ポケット吸いがら入れ」という表示が、昭和四七年ころに、原告の商品表示として周知であったとまでは認められないし、それ以後、現在に至るまでも、原告の商品表示として周知であったとは認められない。

三  以上によると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

第一物件目録

紙面の一方の面にアルミ箔シートを貼着し、その表面にフィルムをラミネートして成る不燃材シートを以て、前記不燃材シートのフィルムをラミネートした面を対向して重ね合わせてその不燃材シートの周辺部分を接着した重合体となし、添付した図面<1>に示される形状にあるように、前記重合体の一方の不燃材シートは上横辺からややはなしたところに、上横辺と平行に、かつ、左右両側の縦辺に達する煙草の吸い殻投入口としての切り込みを設け、該切り込みの上横辺側を折り返し面として形成した、縦辺を約九五ミリメートル、横辺を約六五ミリメートルとする袋体で、袋体に「ポケット吸いがら入れ」の文字が印刷され、袋体の両面には広告主の所望する広告宣伝文字等の印刷を施して成る、煙草吸いがら入れ用袋。

<1>

<省略>

第二物件目録

紙面の一方の面にアルミ箔シートを貼着し、その表面にフィルムをラミネートして成る不燃材シートを以て、前記不燃材シートのフィルムをラミネートした面を対向して重ね合わせてその不燃材シートの周辺部分を接着した重合体となし、添付した図面<2>に示される形状にあるように、前記重合体の一方の不燃材シートは上横辺からややはなしたところに、上横辺と平行に、かつ、左右両側の縦辺に達する煙草の吸い殻投入口としての切り込みを設け、該切り込みの上横辺側を折り返し面として形成した、縦辺を約九五ミリメートル、横辺を約六五ミリメートルとする袋体で、袋体に「ポケット吸殻入れ」の文字が印刷され、袋体の両面には広告主の所望する広告宣伝文字等の印刷を施して成る、煙草吸いがら入れ用袋。

<2>

<省略>

販売実績目録

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

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